鏡で歯を見ても虫歯は見当たらないし、痛みを感じたことはないというあなた、それだけで油断してはいけませんよ。ひょっとすると、歯周病が進行しているかもしれません。虫歯だけでなく、歯周病もチェックしてもらうために、ぜひ歯科医院で定期的な検診を受けましょう。
歯周病という言葉は、最近、テレビのCMでもよく聞くようになりましたが、どのような病気かご存じですか。
30歳以上の人が歯を失う最大の原因は、虫歯よりも歯周病だと言われています。ある調査によると、約4割が歯周病で、虫歯は約3割だそうです。歯周病は軽度のものも含めると20歳以上の8割の人がかかっているそうです。
歯周病にも、唾液の分泌量が大きく関係しています。子供の頃には分泌量が多かった唾液が、年齢を重ねるごとに減っていくことで口の中が乾燥し、唾液の殺菌作用も弱まることから歯周病にかかりやすくなってしまうのです。
歯周病は、歯を支える土台である歯茎の病気です。歯を土台から守るため、定期的な検診と早期発見、早期治療が大切です。
歯周病予防に必要なことは
歯周病を引き起こす主な原因はプラーク(歯垢)です。歯垢のことを、歯についた食べかすだと思っている方も多いでしょうが、実は糖に群がった粘着性のある細菌の塊です。
このプラークは酸や毒素を排出するので、その毒素によって歯茎が炎症を起こしたり出血したりします。
これが歯周病で、悪化すると歯茎の下の骨まで溶かしてしまいます。
こんな恐ろしい歯周病を予防するには、どのような対策があるのでしょうか。
基本的には歯周病の原因となりは歯垢を取り除くことです。そのために効果的な方法を3つ紹介しましょう。
歯磨きとデンタルフロスや糸ようじ
基本となる対策は、当然ですが歯磨きです。歯磨きは食事の前にすべきか後にすべきか、とよく議論になりますが、食事の後、3分以内に歯磨きをすることで歯垢の付着をかなり抑えられるといわれてきました。しかし最近は、食事の前に歯を磨けば、口の中のプラークを減らすことができ、酸や毒素の産出を抑えられるという意見もあります。
どちらにせよ、口の中の食べかすやプラークを増やさないことが大切です。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや糸ようじも使って丁寧に磨きましょう。
デンタルフロスや糸ようじは毎食後にする必要はありませんが、1日1回は歯と歯の間をしっかり掃除して、プラークを取り除いてください。
デンタルフロスと糸ようじのどちらでも構いませんが、デンタルフロスのほうが細かいところまで届きやすいでしょう。ただ、デンタルフロスはコツがいるので、使いにくいという方は糸ようじでも十分です。
よく噛んで食べる
よく噛んで食事をすると、唾液の分泌が促されます。
唾液には食べ物のかすを洗い流したり、口の中を殺菌したりする効果があり、口の中の衛生状態を保ってくれます。この唾液の量が多いと、歯周病にもなりにくくなります。
歯周病は大人に多く、歯周病になる子供はあまり聞きませんが、これは子供のうちは唾液の分泌量が多いからです。
大人になっても、唾液の分泌量を増やすには、よく噛んで食事をすることです。よく噛むことを意識するのはもちろんですが。ゆっくり食事をすれば、食べ物を噛まずに飲み込むこともなくなり、それだけ噛む回数も増えます。
また、噛みごたえのある繊維質の食材を食事に取り入れたり、全粒粉を使ったパンやパスタ、玄米などを積極的に食べるのもいいでしょう。
定期的に歯科医院で歯垢を取ってもらう
歯周病の原因は歯垢の中の細菌が排出する毒素です。ですから、歯磨きで歯垢を除去することが大切なのですが、歯磨きだけでは取り切れない歯垢もあります。
そのため、3カ月から6カ月に1回は、定期検診を兼ねて、歯科医院で歯垢を取ってもらうことも必要です。
定期検診を受ければ、歯周病の状態をチェックしてもらえますし、専用の器具で歯垢や歯石などを取り除いてもらえます。
正しい歯磨きの仕方がわからなければ、歯磨きの指導も受けることができます。「痛い歯はないから」などと言わず、定期的に歯科検診を受けましょう。
ひどい歯周病には薬物治療も
早期の歯周病であれば、歯磨きなどでしっかり手入れをすることで治りますが、重症化すると歯垢を取り除くだけでは、なかなか治りません。
そうした場合は薬物による治療も行われます。位相差顕微鏡という高性能な顕微鏡を使って口の中の状態を検査し、歯周病菌の種類や数などを調べます。そして、歯周病菌の状態にあった薬を飲んだり、歯茎に塗ったりして歯周病の病原菌を抑えます。
歯周外科治療
ひどい歯周病の治療には外科手術が用いられることもあります。
歯周外科治療ともいい、通常、歯垢やプラークの除去など基本的な治療が完了した人で、口の中の衛生状態がよく、歯を残したいという希望を持っている患者さんが対象となります。
歯周基本治療
スケーリング
歯の表面などに付着した歯垢(プラーク)や歯石、その他の沈着物をスケーラーという専用の器具を使って取り除くことです。歯周病の予防や治療の基本となります。
ルートプレーニング
歯肉の奥深くにできた歯石や歯垢を取り除く治療です。
スケーラーを使って歯石や歯垢、汚染された歯の表面を削り取ります。それによって、歯の表面を滑らかにし、歯肉がしっかり付着するようにして、歯垢などが溜まりにくくします。
中程度に悪化した歯周病の治療として行われますが、肉眼では見えない部分なので、歯科医によって技術の差が出ます。最近は、ルートプレーニングを行わない歯科医も増えているようです。
歯周外科手術の目的
歯周病の外科手術は、歯茎の奥まで歯垢や歯石がたまった歯周病の治療のために行われます。主な目的としては、歯垢や歯石によってできた歯周ポケットの除去もしくは改善をし、スケーリングやルートプレーニングを行いやすくすることや、歯ブラシなどで歯垢を落としやすくすることにあります。また、毒素によって損なわれた歯周組織の再生も図ります。
これらによって、歯の保存を目指します。
歯周病の手術法
歯周病の手術にはいくつかの種類があります。
歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)
歯肉剥離掻爬術(しにくはくりそうはじゅつ)とは、歯周ポケットが4mmを超えていて、歯垢(プラーク)や歯石を完全に取り切れないときに行います。
局所麻酔で歯肉をメスで切り、歯周ポケットを切除した後、歯肉を歯の根元の骨(歯槽骨)から剥がし、スケーリングやループレーニングなどで歯と歯肉の間に溜まっていた歯石や歯垢を除去。その後、歯肉を元の位置に戻して縫合する手術法です。フラップ手術とも呼ばれます。
手術時間は症状によって異なりますが、1時間から2時間くらいかかります。局所麻酔をするので手術中に痛みはありませんが、麻酔が切れた後に手術の傷が痛むことがあります。
また、多くの場合、感染を予防するための抗生物質と痛み止めの薬が数日分処方されます。切開した場所は縫合して包帯をしますので、1週間後に抜歯をして包帯を除去し、その後数カ月間、経過を観察します。
歯周組織再生療法(エムドゲイン)
歯周組織再生療法(エムドゲイン)とは、手術自体は歯肉剥離掻爬術と変わりませんが、歯茎を縫合する前に歯槽骨にエムドゲイン(開発歯周組織再生誘導材)というたんぱく質の一種を塗布して、歯周組織の再生を図る治療法です。
エムドゲインは、世界の40カ国以上で使われている薬剤で、日本でも安全性が確認され、認可を受けています。
組織再生誘導法(GTR法)
組織再生誘導法(GTR法)も、「エムドゲイン(開発歯周組織再生誘導材)」と同様に、歯茎を切開して歯垢や歯石を取り除いた後、損なわれた歯周組織の再生を図る方法ですが、薬剤ではなくメンブレンという人工膜を挿入します。
他の手術法に比べ、 麻酔や切開の方法が難しく、専門性が求められるとされます。
歯の分割治療・手術
臼歯(奥歯)の根は2本または3本になっていて、複雑な構造となっているため、奥歯の根元に溜まった歯垢や歯石の除去が難しいことがあります。
その場合、悪い根だけを抜き、健康な根を残す治療が行われます。根が欠けると歯が弱くなってしまうので、後はブリッジなどで補います。
手術法はよく相談をして
歯周病は虫歯とは違って、治療法が完全に確立されていません。また、症状や原因も個人によって異なり、1人1人の症状に合わせて手術法を選ぶ必要があります。歯の状態によっては、違う治療法を組み合わせることもあります。
歯周病手術が必要だと判断されたときは、手術方法や効果、費用などについて歯科医師とよく話し合い、納得してから手術を受けましょう。
歯周病が引き起こす全身の病気
歯周病は歯茎や歯を失わせるだけでなく、他の内科の病気を引き起こす要因になるなど、全身の健康に悪影響を及ぼします。歯周病のとの関連が疑われる病気について説明しましょう。
動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞など血管がつまる病気
動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞などは血管が固くなり、詰まることで起こる病気です。こうした病気は肥満や運動不足、偏った食事が原因だといわれますが、歯周病も要因の一つだと考えられることが最近の研究でわかってきました。
歯周病の原因となる細菌が歯茎の血管から体内に入り、動脈硬化を引き起こす物質を作り出すと考えられています。また、歯周病の人はそうでない人に比べて、2.8倍も脳梗塞になりやすいともいわれています。
糖尿病の悪化要因に
歯周病の原因として糖尿病が挙げられることは、以前から知られていましたが、最近は歯周病によって、糖尿病の症状が悪化していくことも分かってきました。
歯周病と糖尿病はお互いに影響しあい、相乗効果で病状を悪化させていくのです。ということは、歯周病を治すことができれば、糖尿病の症状も改善する可能性があるため、歯周病の治療は糖尿病の改善のためにも必要です。
血糖値の上昇
歯周病になると炎症を起こした歯茎から歯周病の原因となる細菌が血管内に入り、全身を巡ります。
細菌自体は血管内の白血球の働きで死滅するのですが、細菌が死んでも毒素は残り、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きを妨げます。
血液中のHbA1c(グリコヘモグロビン)の値が高くなると、血糖値が高いと判断され、糖尿病が疑われますが、歯周病の治療を行い口内環境がよくなるとHbA1cの値が下がり、標準値に近づきます。
妊婦には早産や低体重児早産のリスク
妊娠中は飲酒や喫煙を避けるよう、医師などから指導されます。しかし、飲酒や喫煙よりも怖いのが、実は歯周病なのです。
早産や低体重児早産については、飲酒や喫煙よりも歯周病のほうがリスクを高めるといわれています。歯周病の場合、健康な人に比べて7倍も早産・低体重児早産になる確率が上がるともされます。
これは、歯周病の原因となる細菌の毒素が血管を巡り、その結果、胎児が毒素を取り込んでしまうことが原因です。
歯周病の予防や治療はそれほど難しいことではありません。元気な赤ちゃんを出産するためにも、妊娠を考え始めたら歯科医で検査を受け、歯周病があれば早めに治しましょう。
肺炎
歯周病の原因菌が肺に入ることで、肺炎を引き起こすことがあります。
若い人はあまり心配ありませんが、高齢になると飲み込む力が弱くなって、食べ物が気管に入ってしまうことがあります。そのときに、一緒に歯周病菌も気管に入り、肺炎になってしまうのです。
最近はよく聞かれるようになりましたが、誤嚥性肺炎という病気で、高齢者にとっては死亡しかねない恐ろしい病気です。
最近では、口腔内を清潔に保つことで、肺炎のリスクを抑えられるという研究もあります。