矯正歯科では、主に歯並びの矯正を行います。歯や口の中にさまざまな器具を装着することで、時間をかけて歯を動かし、正しい歯並びとなるよう矯正していきます。
矯正治療は歯並びの見た目を良くするために行うものと思われがちですが、歯並びの良さは虫歯の予防につながったり、発音がよくなったり、食事をしっかり噛んで食べられるようになったりと、多くのメリットがあります。
もちろん、歯並びがよくなると、人前で口を開けたり笑ったりすることが恥ずかしくなくなります。そして、他人とのコミュニケーションに積極的になり、性格も明るくなるという効果も期待できます。
歯並びで人生が変わることもあるのです。
歯並びが悪くなる理由
「日本人は遺伝的に顎が小さいので、歯の生えるスペースが充分ではなく、歯並びが悪くなりやすい」という話を時々聞きます。もちろん、顎の大きさは歯並びに影響しますが、歯並びが悪くなる原因のほとんどは、遺伝的な要因ではなく癖や生活習慣です。
1.癖
頬杖をついたり、爪を噛んだりする癖が歯並びを乱す原因となります。普段、何気なくしている癖でも、わずかな力でも、長期間、歯や顎に負荷がかかり続けると、歯が移動したり、真っすぐに生えてこなくなったりします。
歯や顎に負担がかかる癖は、できるだけ早く治しましょう。
2.虫歯
虫歯があると、歯並びにも大きな悪影響を及ぼします。
子供の場合は、乳歯が虫歯になって予定よりも早く抜けてしまうと、その後の永久歯の生え方に悪い影響があります。
大人になってからも、ひどい虫歯になる噛み合わせが悪くなり、そのせいで周囲の歯が移動して歯並びを乱してしまいます。
3.口呼吸
鼻づまりなどがあると、口で呼吸するようになりますが、本来口は呼吸するための器官ではありません。呼吸するのは鼻です。
ところが、鼻づまりなどで口呼吸が習慣になると、そのため口呼吸を続けていると、いつでも口をポカンと開けている状態になり、噛み合わせが悪さや顎の変形などを引き起こします。
歯並びとは関係ありませんが、口呼吸をしていると、口の中も乾燥し、ウイルスなどを吸い込みやすくなるので、風邪をひきやすくなります。
正しく鼻呼吸ができているか、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
4.悪い食べ方
食べるのが早いと、唾液の分泌量が少なくなり、虫歯の原因となります。また、噛む力も弱くなるので、顎が発達しません。
また、片方の歯でばかり噛んでいると、均等に歯に力が加わらず、歯並びが乱れてしまいます。食事はゆっくり、歯全体を使ってよく噛むことを心がけましょう。
5.生まれつきの顎や口の形
歯並びが悪い原因のほとんどは癖や生活習慣にあると書きましたが、もちろん、生まれつきの口や顎の形も影響します。中には、顎の形が変形しているために、歯並びが悪くなってしまう人もいます。
外科的に顎の手術が必要な人もいますから、気になる点があれば、歯科医院や専門の病院で相談してみましょう。
手術までは必要なくても、生まれつき歯並びが悪くなりやすい人もいますから、そうした方は、特に歯や顎に負担がかかる姿勢や癖に気をつけてください。
矯正治療が必要な人とは
歯科矯正には歯並びをよりよくするという審美的な側面もありますが、歯の生え方や顎などに問題があり、見栄えだけでなく健康のためにも矯正をしたほうがいい人がいます。
次に紹介するような症状のある人は、一度矯正を検討してみてください。
叢生(そうせい)
「叢生(そうせい)」とは歯が重なり合うように生えている状態です。「叢」とは、くさむら、1カ所に集まるという意味です。
歯が重なり合っていると、歯ブラシでは、歯と歯の間の食べかすや汚れを落とすことができません。このため、虫歯や歯周病になりやすくなります。
乳歯が多い子供のうちであれば、矯正装置を用いて顎を広げ、歯がきれいに並ぶスペースをつくりだします。歯が生え揃った後なら、歯を抜いてスペースを作ってから歯を動かし、歯並びを整えます。
出っ歯
出っ歯は上顎が前に突き出た状態で、口をしっかり閉じることができません。
下顎だけが十分に成長しなかったことや、上顎の過剰な成長、上の前歯の傾き過ぎなどが原因となります。
口をしっかり閉じることができないと、歯や口の中が乾燥し、虫歯になりやすかったり、口臭がしたりします。
顎が成長段階にある子供のうちなら、矯正装置を用いて歯を奥に引っ込めるなどの矯正をします。大人の場合は、歯を抜いて、スペースをつくったうえで、歯並びを整えます。
受け口
上顎よりも下顎が前に出ている状態を受け口といいます。話すときに、発音が不明瞭になり、他人とコミュニケ―ションを取りにくくなります。
顎がまだ成長を続けている年齢なら、矯正装置を用いて、前に出ている下顎の成長を抑制するか、上顎の成長を促して顎の位置を整えます。
最近はマウスピースを使った治療が一般的になってきました。
大人で、装置による矯正が難しい場合は、顎の骨を切断する手術を行う場合もあります。
すきっ歯
「すきっ歯」は、歯と歯の間に隙間があいている状態です。歯の隙間から空気が漏れることで発音や滑舌が不明瞭となります。
ワイヤーを使った装置を使って歯を動かし、隙間を縮める矯正治療が一般的です。ワイヤーではなく、マウスピースを使った治療も、症状や本人の希望に合わせて行われます。
矯正治療の注意点
矯正治療は歯や顎が成長している段階の子供が受けるものと思われがちですが、症状や年齢に合わせたさまざまな治療法があり、あらゆる年代の人が受けられます。
ただ、子供のうちのほうが、歯を動かしやすく、ほとんどの場合、装置やマウスピースを装着することで矯正できるので、「矯正は子供のうちがよい」といわれています。
一方、歯や顎の成長が終わった大人の場合、歯を抜いて歯を動かすスペースを確保したり、ときには外科的手術で顎の骨を切断したりするなど、どうしても治療が大掛かりになりがちです。それは患者さまの身体はもちろん、費用や治療期間の負担も大きくならざるを得ません。
身体的、経済的な負担を考えても、大人になってから矯正するよりも、歯や顎が成長しきっていない子供のうちに済ませたほうが、よいでしょう。もちろん、個人や家庭の事情もあるでしょうが、矯正治療を始めるのなら、少しでも早いほうがよいといえます。
小さな子供がいる人は、歯科医院を一度訪れて、子供の顎の形や成長の仕方をチェックしてもらうといいでしょう。将来治療が必要になる点や気をつけなければならない点などを、知っておけば早いうちから準備することもできますし、悪化しないように注意することもできます。
また大人でも、歯並びや顎の形に悩みがあるのなら、一日も早く歯科医院で診察を受けてください。歯並びや顎の形が自然に治ることはなく、放置していると、ますます悪化することになります。